年々、不安定な天候や蜂がいなくなってしまう現象の影響で、国産のはちみつが減っています。
そんな大変な中でも、「純粋はちみつ」を製造してくださっている中山農園さんは、真面目にコツコツと養蜂を行われています。
中山農園さんのはちみつは、日本橋三越でもあっという間に完売するほどの人気。
一般的なはちみつとどう違うのか、また、はちみつ作りに対する想いを取材させていただきました。
「純粋はちみつ」生産者 中山さんのお話
中山さんは、養蜂業を始める前、高校の生物の先生をしていました。
「私が高校で生物の教員をしているときに、8の字ダンスの研究でノーベル賞を取ったカール・フォン・フリッシュ博士のことが教科書に載っているんですが、それを生徒に見せてやりたいと思ったんです。
そこで蜜蜂を1箱買って育て始めたのが最初のきっかけです。」
最初は全く採ることのできなかったはちみつですが、中山さんが師匠と呼ぶ山本徹さん(浜田市の地域養蜂の第一人者として、林野庁から「森の名手・名人100人」に認定されている方)に出会い、この石見地方の浜田の植物や天候など、
地元の養蜂家さんしか知らないさまざまなことを教わることで、飛躍的に採れるようになったのだとか。
九州や岐阜県など、養蜂がさかんな地域を中心とした内容の書籍が多いため、実は、地元の養蜂家さんしか知らないことが多いのです。
その年の気象の変化や、その地域で咲く花の種類を知り、一週間ほどしかない、その花の流蜜期にぴったり合わせて、最も勢いのある蜜蜂群を作り上げる。
花も蜜蜂も、人間の自由にはならない生物なので、養蜂の難しさはそこにあります。
はちみつ採取の手順をご紹介
さっそく蜂場にお邪魔させていただくと、すごい数の巣箱が。
この場所以外にもいろいろな場所に蜂場があり、メンテナンスをしているのだと言います。
何個もある巣箱の中から、ある巣箱の中身を見せてくださいました。
巣箱の中では家族を思うお母さんのように、働き者の蜜蜂たちがにぎやかに動き回っています。
巣箱の中に枠を入れておくことで、蜜蜂が巣を作り、そこに蜜を運んできます。
中山さんは、驚くことに素手で巣箱を扱われます。
「うちの蜂は刺さないからね。手袋をして作業をすると、誤って蜂をつぶしてしまうかもしれないでしょ。
そうすると、蜂も危害を加えられたと思い攻撃的になって刺すようになるんです。私たちは蜂を我が子のように想い、やさしく育てています。」
はちみつを採取するには、まず、巣箱を開ける時に蜜蜂に「燻煙器(くんえんき)」という煙を吹きかけます。
この煙を2、3回吹きかけると、元気よく飛び出してきた蜂たちも大人しくなり、巣箱から巣枠を取り出しやすくなるのだそう。
その後、取り出した巣を遠心分離器に通して、上質なはちみつを取り出していきます。
何度か漉すことで、とても透き通った純粋なはちみつができあがります。
はちみつは加工品ではない。蜜蜂のおすそ分けをいただく
蜜蜂が蜜を集めるのは、女王蜂や人間のためではなく、蜜蜂全体の保存食や子供の餌として、巣を存続させることが目的。
人間はその恩恵を受けているのです。
「あくまでもおすそ分けをいただいているということを忘れないように。」と中山さんは話されます。
そもそもはちみつとは、働き蜂たちが色々な花の蜜を吸い、体内に溜めたものです。
働き蜂は1回の飛行で胃(蜜のう)を花蜜でいっぱいにして、約 40mg の花の蜜を巣に持ち帰ります。
なんと、自分の体の半分もの重さです。
それを巣に持ち帰って、密の貯蔵を担当する蜂に口移しで受け渡し、巣の中の蜜を貯める部屋へ集められます。
何度か部屋の移動をくり返して、濃縮された状態になると長期保存用の場所に移されます。
長い手間をかけて、蜂たちはおいしいはちみつに成熟させていくのです。
1匹の蜂が一生で集められるはちみつの量は、ティースプーン約1杯分。
あの黄金色に輝くはちみつは、蜂たちの努力の結晶なのです。
日本養蜂協会の基準では、糖度が78 度以上あれば天然蜂蜜として認められます。
しかし、中山農園では糖度が80 度以上になるよう、こだわって熟成蜂蜜を作られています。
「糖度が80 度以上あるものとそうでないものは、やはり、食べ比べると違うことが分かると思いますね。」と中山さんは言います。
一種類の花の蜜からとれたはちみつを「単花蜜」(たんかみつ)、 色々な花蜜が混じった蜜の総称を「百花蜜」(ひゃっかみつ)といいます。
色、形、香り・・・花によって特徴がそれぞれ違うように、そこから採取されたはちみつの味もそれぞれ異なります。
「味も色もその年によって変わりますよ。例えば、3つ花が咲いていたら、蜜蜂は一番蜜を吹く花に行くんです。
だから、その年によって吹く蜜の花は違うので、同じ場所の蜂場の蜜でも毎年味が違うんですよ。うちはその年の味を楽しんでもらおうと思っているんです。 」
中山農園で採れるはちみつは、山にある木の花の蜜を中心としています。
味はやさしく、完熟しているので、瓶をひっくり返した時にそのままトロリとしています。
完熟していない若い蜂蜜はそのままサーっと流れてしまいます。
生きたはちみつは抗菌力抜群!
中山農園のはちみつは、熱を加えていないので、殺菌・抗菌効果があります。
「うちのはちみつは熱を加えていない生きたはちみつだから抗菌力が高くて、そのままスプーンを突っ込んで食べても、本当は大丈夫なんですよね。」と話す中山さん。
紀元前323 年にアレクサンドロス大王が戦で亡くなった際に、1ヶ月かけて地元に帰るとき、何をしたかというと、その死体をはちみつに浸けて腐らないように保存したそう。
本来はちみつは、それくらい抗菌力が高いのです。
“生きている”ということは、酵素が生きているということ。
酵素はタンパク質なので60 度以上の温度にしてしまうとただの砂糖水になってしまい、せっかくのはちみつの栄養素が無駄になってしまいます。
糖分や酵素の他にもビタミン類やミネラル類・アミノ酸など、さまざまな有用な成分が含まれています。
「純粋はちみつ」の決まりごと
「純粋はちみつ」とは、シンプルに、蜜蜂が花から集めて巣の中で濃色・貯蔵していたはちみつを、人間が採取した際に加工処理を一切行っていない、天然のはちみつを指します。
しかし、はちみつにはさまざまな種類があり、日本では砂糖などを添加してコストを抑えてあるものもあります。
「はちみつ大国のヨーロッパの人たちは、混ぜ物をするなんて信じられない!と驚くんです。」と中山さんは話されました。
「純粋はちみつ」の見分け方をお伺いすると、結晶化するかどうかをチェックすることだそう。
はちみつは時間が経つにつれて結晶化します。
そのため、結晶化しないものは疑った方がよいという。
そしてさらに安心して純粋はちみつを購入するなら、顔が見える養蜂家のはちみつを選ぶ事も大切ですね。
中山農園で真面目に作られた本物のはちみつを、ぜひともご家庭でお楽しみください。